「美食探偵」第七話

ミラーボールが回るライブハウスの映像から始まる第七話。コロナ禍ですっかり遠い存在となってしまったライブは、それ自体が今となっては手が届かないものを想起させる。ステージ上で歌って踊る3人のアイドルとファンの間に存在する距離は、ソーシャルディスタンスの2mよりも近いのだろうか。遠いのだろうか。
 
待ってましたの美食探偵。今回の主役は武田玲奈の演じる「ココちゃん」。彼女は天使をテーマにした地下アイドルの一員であるが、ストーカーと化したファンであるHN「ルシファー」を殺すことになる。自らの羽を守るための行為によって、殺した相手が名乗っていた「堕天使」へと落ちてしまうというストーリー。
 
そのお話の展開をベースにしながらも、これまできちんとドラマを観てきたファンとして気になるのはやはり明智と苺の二人の関係。休止前の「おいしい料理を作れる人間には傍にいて欲しい」という罪深いフレーズ、やはり明智は何も考えておらずで、苺を縛り付ける魔の呪文になっている。二号桃子とのやり取りはコメディタッチで描かれるが、明智の前で時折見せるのはシリアスな表情。上がったり下がったり。ジェットコースターのような感情の起伏は観ていて微笑ましくもあり、心苦しくもあり。そして片や安定走行を見せ続ける貫禄のマリア。いやもう細かなツッコミ所については何も言うまい。ココちゃんの前に現れて、そしてまた頭を撫でていくあのシーンの妖艶さと、えも言われぬ迫力。私は小池栄子を観るためにこのドラマを観ているのかもしれない。
 
第七話のストーリーは上記でさらっと触れてしまったが、地下アイドルをテーマにした話。ストレートで分かりやすい物語だとは思うが、ココちゃん自身はストーカーの件以外にも色々とトラブルを抱えた存在として描かれる。ストレスから来る摂食障害。家バレをしたくないという家庭環境。彼女自身は偶像、手の届かない存在などでは決してなく、様々なトラブルを抱えこんだ一人の弱者である。明智がストーカーの心理を評した「手の届くものだと感じてしまった」という言葉から顕著だが、本来的な「アイドル=偶像」という位置からすっかり変容してしまった現代の「地下アイドル」という存在を、「天使」をモチーフとしたグループで描いたのは作者の皮肉ゆえと読むのは穿ちすぎだろうか。
 
「アイドル=偶像」ゆえに「アイドル=天使」は成り立つとして、では地上(どころか地下)に降り立った天使はどうなるのか?それは元から堕天使と呼ばれる存在ではなかったか?もし事件がなかったとすれば、この三人娘に「タラちゃん&レバちゃん」が説教する姿まで容易に想像が出来てしまう、と言うのはさすがに突飛すぎるとしても。うっすらとした悪意のような何かが透けて見える気もする。
 
ともあれ。今回最大のサプライズは「れいぞう子」でしょう。まさかの復活。何といっても一度人間をバラバラにした女性ですから、これは強力な新戦力。当然ながらココちゃんもマリアファミリーに参加するんだろうな。「れいぞう子」と「堕天使」を加えて高笑いするマリアのあのセリフが聴こえてくる。「私初めてよ。こんな楽しい家族が出来たの!」
 
第八話もマリア様のために観ることを宣言します。