対称

激動の11月。

何も分からないまま放り込まれた現場にて、ただひたすらに声を出した。
「限定商品です!」と、あらん限りの力を振り絞って叫ぶその姿はさぞかし滑稽だったに違いない。
お見苦しいものをお見せしました。

それはかなり大きなイベント現場で、僕が入らせていただいた某企業さんのブースはその中でも最大級の造作だった。
真ん中にはステージが鎮座し、バックパネルが左右に2面ずつ。
ロゴの配置からコピーの入れどころまで、美しき左右対称。

ちなみに大先輩はこのブースを絶賛して、しきりに「シンメが取れてる」とのフレーズを連呼した。傍らの大後輩は、アシンメトリーの略であってもシンメだな、なぞと小生意気なことを思っていたがそれはまた別のこと。



そういえば学生のころ、好んで髪型をアシンメトリーにしていた。
右側が短く、左側が長い。
その名残はいまでも残っていて、長さはほぼ均等だけど、左側に流すような髪型をしている。
非対称なものによって生まれる違和感と何やらその珍奇な感じ、を身にまとうことがお洒落だと勘違いしていた。
説明するとそういったことだ。


おそらく大体の物事は、対称であることを自然な形にしている。
右が上がれば左は下がる。上がりっぱなしは多分なくて、
上がった後は落ちる。上がれば上がるほど深く落ちる。
落ちきったところはスタートラインと何も変わらない。
なのに、ただ落ちたという実感だけが全てを支配する。



11月という秋の底に、冬眠寸前の熊みたいな無気力が漂う。
実りの秋は謳歌した。紛うことなき頂点と共にあった。
今は何も考えずに眠りたい。